投資理論

第2回 ローリスク・ハイリターンはありうるのか?

 第1回は、リターンとリスクについて詳しく説明しました。今回の話題は、リターンとリスクの組み合わせについて深く考察します。特に、低リスクで高リターンな株が実際に存在するのか、という問題を考えていきます。

1 リターンとリスクの関係をグラフで描くと

 図1は時間の経過を横軸に、株価を縦軸に示したグラフです。このグラフにおける「リスク」は、株価の値動きの幅、つまり変動の度合いを表しています。一方、「リターン」は、平均的に株価がどの程度上昇するかを示しています。1年ごとの増加率の平均とします。また、ここではリスクとリターンは未来も変化しないと仮定します。株価は右肩上がりで上がっていますが、1年後はどのくらい上昇するでしょうか?リターンだけ増加すると予想するのが妥当な判断ですが、株式にはリスクがあるためリターンよりも多く増えたり、逆にリターンよりも少ない上昇しかない場合もあります。

図1 株価の年変動と1年後のリターンとリスク

それでは、リターンとリスクの関係にはどのような関係があるでしょうか?以下の4つのパターンが考えられます。

  • A ローリスク・ローリターン 
  • B ローリスク・ハイリターン 
  • C ハイリスク・ローリターン 
  • D ハイリスク・ハイリターン

それぞれのパターンを図2に描いてみると以下のようになります。

図2 リスクとリターンの関係

Bのローリスク・ハイリターンの投資対象はとても魅力的に見えます。Bのような株は存在するのでしょうか?実は、現代ポートフォリオ理論ではローリスク・ハイリターンの投資対象は存在しないことなっています。

SP500ちゃん
SP500ちゃん
Bは損する可能性が小さくて儲けも大きい。理想的だわね。Cはリスクだけ大きい。これは論外ね。AとDは好みが分かれそうだけど私はDのほうが好きかな。
Dr. めたる
Dr. めたる
そうだね。好きなものを順に並べて欲しいとたくさんの人にお願いしてみると、大部分の人はB>A≒D>Cという風に並べるんじゃないかな。

2 ローリスク・ハイリターンの株

 なぜBのような株は存在しないのでしょうか?これからローリスクでハイリターンな投資先は存在しない理由を説明していきます。まず、ローリスクでハイリターンな希少な株(仮称:はぐれめたる株)があったとしてみます。この価格は現在100万円で、一年後に149万円か151万円の幅で値動きがあるとします。これがリスクです。リターンは50万円とします。

このはぐれめたる株は、リスクとして値動きが±1万円であるのに対してリターンが50万円もある。リターンに対してリスクがとても小さいです。すなわちローリスク・ハイリターンな株です。

図3 ローリスク・ハイリターンなはぐれめたる株

さて、このはぐれめたる株が売り出されると人気が殺到するのは間違いありません。みんなが買いたがります。そうなるとこのはぐれめたる株の値段がどんどん上がっていくことになります。高く売れる株をあえて安く売る人もいないでしょう。最初は100万円だったものが、110万円、120万円・・・と段々と値上がりしていくことになります。

図4 ローリスク・ローリターン化したはぐれメタル株
Dr. めたる
Dr. めたる
株価が上がっていくけど、SP500ちゃんはどこまで出しても良いかな?
SP500ちゃん
SP500ちゃん
140万円でも買いね。この値段で買っておけば損することはなさそう。

 140万円まで値上がりした場合、リターンが50万円が10万円まで小さくなったことになります。ローリスクでハイリターンであったはずの「はぐれめたる株」は値上がりして、すぐにローリターンに変化していくのです。つまり、何かの手違いでローリスク・ハイリターンの株が売り出されると買いが殺到してあっという間に株価が上昇することになります。そして、ローリスク・ハイリターンだったものがローリスク・ローリターンになるのです。

Dr. めたる
Dr. めたる
現実の株式市場ではローリスク・ハイリターンな株が転がっているチャンスはあるにはある。リスクとリターンを正確に計算できるわけじゃないし、全ての投資情報が瞬時に全ての投資家に共有されている訳じゃないからね。ただ、そんな株は非常に少ない。それでもローリスク・ハイリターンな株を探している投資家はたくさんいるよ。

3 ハイリスク・ローリターンの株

 次にハイリスク・ローリターンの株(仮称:ぞうま株)を考えてみます。この株の価格を同じく100万円とし、1年後に80万円か120万円の幅で値動きするとします。この株の平均的なリターンは残念ながら0万円です。リスクは±20万円と高いのにリターンは0万円というローリターンな株を考えてみます。

図5 ハイーリスク・ローリターンなぞうま株
Dr. めたる
Dr. めたる
この「ぞうま株」は買いたい?100万円が120万円になる可能性もあることはあるけど。
SP500ちゃん
SP500ちゃん
遠慮しとくわ。80万円になって20万円損する可能性も同じくらいのよ。その確率が五分五分では何か割に合わない気がするわ。

 この株を買いたいと思う人は少ないでしょう。ギャンブル好きの人なら買うかもしれないけど、平均的な儲けが0万円なら普通の人は手を出さないでしょう。そうなると株の値段がだんだんと下がっていきます。100万円だったものが、90万円、85万円という感じで値下がりしていきます。

図6 ハイリスク・ハイリターン化したぞうま株
Dr. めたる
Dr. めたる
いくら下がったら買ってもいいかなって思う?
SP500ちゃん
SP500ちゃん
私だったら85万円位なら買ってもいいかな。この場合は損する場合は5万円で儲かる場合は35万円なので分がいい勝負になりそうだし。

 このぞうま株は売りに出されると値が下がり、そうすることによって、リターンが上がっていきます。ぞうま株の業績が良くなってリターンが増えるのではなく、現在の株価が安くなってリターンが増えるという現象が起こります。(リスクを取ることによって追加的に得られるリターンのことをリスクプレミアムといいます。)

このようにハイリスクでロ―リターンの株は値下がりしてハイリターンになっていきます。つまり、ハイーリスク・ローリターンの株が売り出されると誰も見向きもされないので値段が安くなるということです。そして、ハイリスク・ローリターンだったものがハイリスク・ハイリターンに変貌していくことになります。

まとめると図1のBとCは存在しないことになるので、株式市場は、ローリスクならローリターンの株か、ミドルリスクならミドルリスク、ハイリスクならハイリターンの株しか存在しないこととなります。

Dr. めたる
Dr. めたる
上記の意味するところはリスクは儲けの源泉ということなんだよ。
SP500ちゃん
SP500ちゃん
大きいリスクを取ると儲けも大きいけど、痛い目にあう可能性もあるってことだよね。 小さいリスクだと儲けも小さい。株の世界では都合の良い話はないってことね。

注意点としては、実際の株式市場では、ハイリスクローリターンの株も存在するということです。会社の利益はそこそこなのに、会社が不正をやっていたり、社長がワンマンだったりと数字では見えないリスクが高い会社もあるので注意しましょう。そんな会社はリスクが高いと判断されて次第に株価が低下してハイリターンに代わっていくのですが、市場がそれを見誤る可能性があります。

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