これから投資を始めようとする人がまとまった預貯金を持っているとします。これから株式投資を始める場合、その資金を一度に投資するべきでしょうか。それとも、何回かに分けて少しずつ投資するべきでしょうか。先に結論を述べると、資産を最も増やせる可能性が高いのは一括投資です。株式市場は、長期的に見れば、値下がりしている期間よりも値上がりしている期間のほうが長いため、早い時期に投資したほうがより大きなリターンを得られる可能性が高くなります。しかし、僕は、一括投資に強い不安を感じる人には、分割投資を勧めたいと考えています。
分割して投資する方法として、よく知られているのが「ドルコスト平均法」です。ドルコスト平均法とは、一定の金額を定期的に投資する方法です。価格が安いときには多くの口数を買い、価格が高いときには少ない口数を買う投資方法です。ドルコスト平均法は根強い人気のある投資方法です。




この例だけを見ると、ドルコスト平均法は非常に有利な投資方法に思えます。しかし、すでにまとまった投資資金を持っている場合、期待リターンの面では一括投資のほうが有利になることが多いとされています。それは、分割投資では待機資金が利益を生まないからです。上記の例では基準価額は上がったり下がったりすることでドルコスト平均法の効果が生まれましたが、株式市場には長期的な上昇傾向があるため、分割投資をすると、まだ投資していない資金が現金のまま待機することになります。その待機資金は、株式市場が上昇している間の利益を生みません。そのため、利益を得るという観点だけで考えれば、余剰資金はできるだけ早く投資に回したほうが合理的です。上記の例は下落と上昇を繰り返しましたが、下記のように上昇が続く場合、最初の月に一気に投資したほうが良い結果となります。

もう1つ注意する点があります。分割投資によってすべての資金を投資し終えた後は、その時点から一括投資とほぼ同じ価格変動リスクを負うことになります。分割投資は、投資を始めた直後の下落リスクを和らげることはできます。しかし、将来にわたって株価下落のリスクそのものを小さくしてくれるわけではありません。インデックス投資の普及に大きく貢献した山崎元さんも、ドルコスト平均法について「気休めにすぎない」と仰っていました。
参考記事:
https://media.rakuten-sec.net/articles/-/24299
ここからは、代表的な投資本が一括投資と分割投資(ドルコスト平均法)をどのように評価しているのかを見ていきます。
1 ウォール街のランダム・ウォーカー(原著 第13版)
まずは、山崎元さんも言及していた『ウォール街のランダム・ウォーカー』が、ドルコスト平均法をどのように考えているのかを見てみます。著者のバートン・マルキール氏は、第14章「投資家のライフサイクルと投資戦略」の「ドル・コスト平均法はリスクを効果的に低減する」において、ドルコスト平均法に肯定的な見解を示しています。「ドル・コスト平均法は、決して株式投資のリスクを取り除く万能薬ではない」、「右肩上がりの相場の下では、このアプローチはベストとは言えない」としつつも、「相場サイクルのピーク時にまとめて高値で投資した後、運悪く相場が崩れたときに陥る後悔や自己嫌悪の念を和らげてくれる効果は大きい」と評価しています。たとえ一括投資にリターンの面で負けることがあったとしても、ドルコスト平均法を忠実に続けていれば、株式投資ならではの高いリターンを得られる可能性は十分にあるという考えです。全体として、ドルコスト平均法にかなり肯定的な立場だと思われます。
2 サイコロジー・オブ・マネー 一生お金に困らない「富」のマインドセット
インデックス投資家から絶大な支持を得ている『サイコロジー・オブ・マネー』の著者、モーガン・ハウセル氏も、ドルコスト平均法に肯定的です。同書の第20章「告白」において、ハウセル氏は「低コストのインデックスファンドにドルコスト平均法で投資することが、ほとんどの人にとって長期的に成功する確率が最も高い投資法だと考えている。」と述べています。ただ、この本で書かれているドルコスト平均法は、まとまった資金を意図的に分割するというよりも、給与などから継続的に一定額を積み立てる投資方法として捉えているのかもしれません。
Amazonのリンク「サイコロジー・オブ・マネー 一生お金に困らない「富」のマインドセット」
3 投資の4原則
ウィリアム・バーンスタイン氏が書いた『投資の4原則』では、第17章「投資戦略を構築し、管理し、支出する」の中で、ドルコスト平均法について論じています。バーンスタイン氏は、たいていの場合、一括投資がドルコスト平均法を上回ると述べており、期待リターンの面では一括投資のほうが有利だと考えています。
一方で、ドルコスト平均法にも一定の理解を示しています。バーンスタイン氏は、「ドルコスト平均法もバリュー平均法も、2000年の市場の高値のような不吉な時期に一括で投資することを選んだ人物が感じる後悔を最小化する。」と述べています。そのうえで、「一括投資は実行できないかもしれない最善のテクニックだが、一方でドルコスト平均法やバリュー平均法は精神的には非常にやさしい次善の策である。」と締めくくっています。
4 JUST KEEP BUYING 自動的に富が増え続ける「お金」と「時間」の法則
JUST KEEP BUYINGも、サイコロジー・オブ・マネーと並んで、多くの投資家から支持されている本です。著者のニック・マジューリ氏は、第13章「いつ投資すべきか? なぜ早いほうがいいのか」において、分割投資と一括投資を詳しく比較しています。マジューリ氏は「ほとんどの市場は、ほとんどの期間、上昇している!」と述べており一括投資を推奨している。彼は「今すぐ全額投資しよう」と述べています。
同書には、具体的な数値例も豊富に掲載されています。例えば、1997年から2020年までの期間について、S&P500への一括投資と分割投資を比較すると、分割投資のパフォーマンスは一括投資を年率換算で平均約4%下回ったとされています。これはS&P500に限った話ではなく、金(ゴールド)などのほかの資産でも、同じような傾向が確認されたとしています。
さらに、投資家が株価を割高だと感じている場合でも、一括投資のほうが有利である可能性が高いと説明しています。株価が割高か割安かを測る指標の一つに、CAPEレシオがあります。米国株では、CAPEレシオが高いと、株価が割高な水準にあると判断されることがあります。同書の分析では、CAPEレシオが高い時期であっても、分割投資のパフォーマンスは一括投資より低かったとされています。
マジューリ氏は、結論として「投資への決断が遅れれば遅れるほど、得られるリターンが少なくなる。」と述べています。
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5 インデックスファンドを推奨する42の理由
この本でも、第26章「ドルコスト平均法」という一つの章を使って、ドルコスト平均法を詳しく論じています。著者のラリー・E・スウェドロー氏は、一括投資と分割投資のどちらが有利かという問いについて、学術的な結論は以前からほぼ決まっているとして、一括投資の優位性を示す複数の論文を紹介しています。そのうちの一つでは、S&P500に投資した場合、一括投資はドルコスト平均法と比較して、109回中70回、約64%の割合で高いリターンを上げたとされています。
スウェドロー氏は「その日が次の千年紀まで超えられないような高値になると確信して『思い切って1回で投資できない』場合は、苦肉の策としてドルコスト平均法を選ぶことになる。」と述べており、ドルコスト平均法はしぶしぶ認める姿勢のようです。どうしても分割投資とする際には、事業計画書を作ってスケジュール通りに投資することを勧めています。事前にスケジュールを決めておくことで、論理と感情の両方に対処できるとしています。スケジュールがないと株価が下がるまで待ち、さらに下がるのを待つといった判断を繰り返しがちとなり、いつまで経っても投資できなくなる可能性があります。
Amazonのリンク「インデックスファンドを推奨する42の理由」
6 父が娘に伝える自由に生きるための30の投資の教え
ジェイエル・コリンズ氏が書いた同書は、Part 3の第23章「ドルコスト平均法を好まない理由」においてドルコスト平均法を批判しています。ドルコスト平均法の弱点がよく整理されているためここで引用します。
① ドルコスト平均法を採用したあなたは、市場が下落し痛みを軽減してくれるほうに賭けています。どの1年間を見ても、あなたの思ったとおりになる確率は23%以下です。
② 77%強の確率で市場は上昇します。その場合、ドルコスト平均法では、得られる利益が減少します。分割投資のたびに、より多くのコストを支払うことになります。
③ ドルコスト平均法で投資することは、一度に投資するには市場の水準が高すぎると考えているのと同じです。つまり、市場のタイミングをうまく捉えたいという曖昧な世界に足を踏み入れているのです。それでは、結局、負けてしまいます。
④ ドルコスト平均法で投資すると、資産配分が乱されます。最初のうちは、あなたの手元に投資されるのを待っている資金がたっぷりあります。それが望みどおりの資産配分ならかまいませんが、そうでないとすると、ドルコスト平均法で投資方針が大きく変わっていることを理解しなくてはなりません。
⑤ ドルコスト平均法では、それを利用する期間を設定する必要があります。市場は長期的に見ると上昇傾向にあるので、1年を超える長い期間を選択すると、投資コストがどんどん上がるリスクを負うことになります。選んだ期間が短い場合は、そもそもドルコスト平均法を使う意味がありません。
⑥ そして最後に、設定した期間が終了し、投資すべき資金を投入してしまうと、結局、その次の日に市場が下落するリスクを負うことになります。
(引用)ジェイエル・コリンズ著 父が娘に伝える自由に生きるための30の教え
①と②に書かれているように、コリンズ氏は株式市場には長期的な上昇傾向があるため、できるだけ早く投資したほうがよいという結論を出しています。また、⑥で述べているように、分割した資金のすべてを投資し終えたなら、そこから先は一括投資と何ら変わらないため、負うリスクの大きさは同じだという指摘もしています。
最後にそれでも一括投資が怖い人に向けて、コリンズ氏は「投資した途端に市場が下落するかもしれないと思うと、夜も眠れないという場合には、ドルコスト平均法を使うのがよいでしょう。何をやっても世界の終わりが来るわけではありませんから。」と述べ、多少の皮肉を込めて締めくくっています。
Amazonのリンク「父が娘に伝える自由に生きるための30の教え」
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7 各書籍の見解
それではドルコスト平均法に対する見解をまとめておきましょう。
| 本 | 推奨する投資方法 |
| 1 ウォール街のランダム・ウォーカー (Amazonのリンク) | ドルコスト平均法(一括投資に対する記述なし) |
| 2 サイコロジー・オブ・マネー (Amazonのリンク) | ドルコスト平均法(一括投資に対する記述なし) |
| 3 投資の4原則 (Amazonのリンク) | 最善は一括投資、次善はドルコスト平均法 |
| 4 JUST KEEP BUYING (Amazonのリンク) | 一括投資を推奨 |
| 5 インデックスファンドを推奨する42の理由 (Amazonのリンク) | 一括投資を推奨。ただし、高値掴みとなりそうで心理的に負荷が大きいときのみドルコスト平均法を認める |
| 6 父が娘に伝える自由に生きるための30の投資の教え (Amazonのリンク) | 一括投資を推奨。ただし、投資直後の下落が怖いときのみの苦肉の策としてドルコスト平均法を認める |
8 僕の意見
最後に、僕の意見を書いておきます。投資経験が浅い人は、ドルコスト平均法を利用して投資するのがよいというのが僕の意見です。期待リターンだけを考えれば、一括投資が有利です。しかし、そのことを理解していたとしても、投資した直後に暴落が起きれば大きな含み損に耐えなければなりません。長期的に保有し続けることができれば、いずれ資産が回復し増えていく可能性は高いです。しかし、投資経験が浅い人が大きな金額を投資していた場合、暴落の恐怖に耐えられず最も価格が下がった時期に資産を投げ売りしてしまう可能性はかなり高いのではないでしょうか。理論上は一括投資が有利でも、暴落時に売却してしまえばダメージも大きく、今後、投資を再開するときに大きな足かせとなってしまうでしょう。
これを防ぐためには、価格が下がったときに多くの口数を購入できるドルコスト平均法は、たとえ「気休め」であったとしても有効だと思います。損得だけではなく、投資を途中で投げ出さないためのお守りとして、ドルコスト平均法を利用するのです。投資期間が長くなり、投資額が大きくなればリスクも大きくなりますが、長い投資期間の中で、相場の上下に精神的に慣れることができるのではないでしょうか。このような理由から、僕は投資初心者にドルコスト平均法を勧めたいと思います。
もちろん、ある程度投資に慣れており、大幅な下落が起きても冷静に保有を続けられる人であれば、一括投資のほうが合理的です。上記のいくつかの本もこのことを指摘しています。しかし、投資の初心者にいきなり一括投資を勧めるのは僕はやはり気が進みません。ドルコスト平均法で始め、投資に十分に慣れてから残りの資金を投入するといったステップが必要でしょう。
中級者以上であれば、一括投資は合理的な選択肢でしょう。ただし、その場合でも、投資直後に50%程度の暴落が起きたとき、自分がどのような感情になるのかを想像してみることは、とても大切ではないかと思います。
一括投資と分割投資のどちらが優れているかを期待リターンの面から考えれば、一括投資に軍配が上がるでしょう。しかし、最も重要なのは、暴落時に狼狽売りすることなく、自分が長く続けられる方法を選ぶことだと思います。




